夢の橋 - トップページ

出会う10

 22, 2017 06:59
「あれは村山たかに間違いない」
 庭に降りて来た黒揚羽が言う。私と総司は何時もの朝の練習だ。鼠の短銃の腕も上がってきている。最近総司がその短銃で自分を狙えと言っている。だがずっと拒み続けている。弾丸を見切ると言うのだが私は恐ろしい。
「それに彼女は短銃を懐に飲んでいたわ」
 それだけ言うと黒揚羽は屋敷に戻っていく。
「その村山たかは短銃を使うのね?だからどうしても確かめたいのよ」
「またその話か?それより最近見る夢を教えてくれ?」
「教えたらやってくれる?」
「ああ」
「最近夢が明るい色に変わった」
「では今までは?」
「いつも霧のような世界だった」
「私が出てきた?」
 首を横に振る。
「最近母の店を手伝うようになった。そこに来る人と話した」
「顔見た?」
「いつも顔はぼやけている。それでいいね?」
と言うともう大木のところに行って真剣を抜く。私は仕方なく短銃を出してきて構える。狙いを少し外す。それでも指が震えている。総司の構えは堂々としている。
「早く」
「行くぞ」
 引き金を引いた。一瞬目を瞑ってしまった。総司が倒れている。思わず駈け寄っている。同時に強烈は平手打ちを食らった。首筋に血の跡がある。
「的を狙っていなかったのね?」




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出会う9

 21, 2017 07:18
 岩倉邸は上野御徒町にある豪華な洋館だ。私は伯爵の意見で黒揚羽に声をかけて晩さん会に潜り込んだ。私は伯爵のタキシードに髭を生やし黒揚羽は取り寄せたドレスを着た。黒揚羽はもし生き変わりなら分かると言う。
「あなたダンス覚えた?」
「何とか」
 大広間に入ると博士の姿も見えた。彼もイギリスの貴族だ。彼の横には新聞記者の妹が座っている。彼とは15歳も離れた一番下の妹だ。取材を兼ねて博士を利用したようだ。私達は呼ばれて博士の席の座る。
「今岩倉と話しているのはイギリスの大使だ」
 その横に川路が夫婦連れで座っている。
 楽団が入ってきてダンス曲を流す。黒揚羽が私の手を引っ張る。黒揚羽の手はあまり好きではないのだ。死人のように冷たいのだ。さすがにダンスは上手い。
「鼠、入口の近くを見なさい」
と言われて視線を向ける。外国人が半分ほどいる。黒のドレスを着た村山たかだ。秘書と言うことで控えめに一人で立っている。こう見るとなかなかの美人だ。
「彼の相手お願いするわ」
と黒揚羽は自然に言い隣に立っていた外交官らしいイギリスの青年に声をかけている。
「いいですか?」
「はい。あまりうまくはないですけど?」
 博打場の時より薄化粧をしているが間違いなく村山たかだ。踊りだすと結構うまい。だが微かに右足を引きづっている。
「お怪我を?」
「躓きました」
 彼女は総司とは違い熱線のような目をしている。2曲が終わって彼女は岩倉の元へ向かった。胃くぁくらの耳元で何やら囁いている。岩倉の視線が私を見ている。
「そろそろ引き上げるわ」
 黒揚羽が声をかけてくる。用意していた馬車でイギリス大使館に戻る。これは博士が手配してくれたのだ。やはり後ろに気配があった。







出会う8

 20, 2017 06:57
 女が現れてからどこに姿を消したのだろう。2階の部屋の話をして蜘蛛や総司や私が丸一日調べまわった。蜘蛛の言うには1か月も前からここに出入りしていたようだ。蜘蛛は一月毎使わない部屋を見回り封を張っていたのだ。だが今回は新しい封は切られていない。
 今日は久しぶりに伯爵の人力車のお供で書生になった。ウイリアム博士の屋敷に入ると紅茶を入れてくれる。今は私も伯爵の一員で同じテーブルにかける。
「調べてくれたか?」
「ああ、あれは村山たかだ」
「やはり」
「鼠は知らないだろうから教えたげるよ。大老の井伊直弼の愛人だ」
「私も彼女には何度も祇園で会った。なかなかのいい女だったよ。だが多くの獅子が彼女の通報で捕まったのさ。私の記憶では大老がなくなった後三条河原で息子とともに死んだと思うが?」
 博士は新聞を手に、
「実は彼女だけ京都の金福寺の尼に助けられまだ生きていると言うことだ」
「だが仮に生きているとしても相当なお祖母さんだろう?あの女は20歳そこそこだった」
「娘を生んだと言う記録もない」
「他人の空似にしてもあまりにも目力があった」
 博士は新聞の写真を見せて虫眼鏡を当てた。
「これは岩倉が会見をしている新聞の写真だ。この横にいるのは岩倉の秘書だ。似ているだろう?」
「確かに似ているな?」
「これは私の仮説だが村山たかの生まれ変わりではないかと思うのだ?」
「生まれ変わりなんてあるんですか?」
 私が独り言のように言った。
「トラベラーもいる。黒揚羽のように意志を持って時代を生き延びる者もいる。あれほどの傑女なら生まれ変わりもあると思う」
「よし、鼠次は岩倉邸に忍んでくれ」






出会う7

 19, 2017 06:58
「本当にいいのですか?」
 社長室で念を押して書類を説明しサインをもらう。これは検査部がまとめあげた不良債権の行状だ。恐らくこの社長はバブルの僅かでも甘んじたと言うことはないのだろう。
「そういう君もバブルを知らない新入社員ではないか?」
と言われて頷いた。まるで整理のために入社したようなものだ。その足で会社を出ると顧問弁護士のところに書類を届ける。帰りは乗り継いで蒲田に出る。まだ5時で外も明るい。この時間にこの立ち飲み屋がやっているとは知らなかった。それでも中には年配の客が5人テーブルを囲んで飲んでいる。
「今日は早いね?」
とおばさんお顔が奥から覗く。仕入れた商品を段ボールから出している。
「何時から?」
「11時から開いている。時間帯に合わせて常連がいるのさ」
と言ってビールを抜いてウインナーを2本くれる。私が金を払っていると階段に向けて叫んでいる。そうするとジャージの足が見える。おばさんは背中を向けてインスタントのカレーを食べている。
「早いのね?」
「この時間も店に出るの?」
「ううん。食事の間だけ」
 ようやく覚えてくれたようだ。
「読んだ?」
「もう2回目。それで夢見ちゃった」
「夢見たら覚えている?」
「覚えていない。でも昨日の夢は何だか覚えている。私が小柄を投げた夢」
「刺さるの見た?」
「右足に刺さった」
 総司はしっかり覚えていた。
「総司」
と言いかけた時すでに急な階段に消えていた。




出会う6

 18, 2017 06:59
 総司の話で翌日右足を引きづっている博徒を探した。
「総司、狙いを外したのじゃないか?」
「冗談を言わないで」
 蜘蛛の質問に総司が膨れている。
「いや、確かに床に血の跡がある。床に落ちるくらいだから足を引きづっていてもおかしくないさ」
と源内が書斎に入ってくる。その後ろを伯爵がゆっくり入ってくる。伯爵も今日は博打をしている。
「君らは思い込みをしているのではないかね?」
「思い込み?」
 総司が腕を組んで伯爵を見ている。
「そうだ。なぜ男に絞り込んだ?」
「それは博打場の大半は男ですよ。女中はすべて覚えてますぜ」
 蜘蛛が不満そうに言う。
「ところが今日は女連れの博打打ちがいた」
「確かにいい女が私のサイを掛けていたわよ。男ばかり見ているから目に入らないのよ」
 派手な着物姿の黒揚羽が入ってくる。
「そうだその女だ。先ほどまで賭場にいたが姿を消している。恐らく今度の相手は暗殺団のようなチームではなく個人の動きだな?源内一度女スパイを調べてくれないか?」
 今回は妙に伯爵は気にしているふうだ。
 私は源内に呼ばれて屋敷の2階を調べるように言われた。2階には和室の部屋が6室があり勤王の獅子の宿泊所のようだったと言う。だがそれぞれが出世して出て行きそれからは使っていない。上り口の階段は新たに作られた板塀に塞がれていて、小さなくぐり戸がある。
 確かに埃の被った階段に確かに足跡がある。これは女の足跡だ。階段を上がって廊下を抜け一番手前の小さな部屋に入る。血を拭た手拭いが落ちている。ずいぶん前からこの部屋を使っていた形跡がある。








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